元参議院議員 田中しげる

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[会議録]田中茂 憲法審査会(参議院) 2015年9月7日
会議録 2015/09/07

189-参-憲法審査会-4号-2015年09月07日-初版

田中茂君

日本を元気にする会・無所属会、無所属の田中茂です。

戦後の二院制を考えた場合、当初GHQから提示された日本国憲法草案、いわゆるマッカーサー草案、それでは貴族の身分がなくなり、貴族院は不要として国会は一院制になっていたと理解しております。

これを見た松本烝治国務大臣は、一院制では選挙で多数党が替わるたびに前政権が作成した法律が全て変更され、政情が安定しなくなることを指摘し、GHQ民政局局長のホイットニー准将に二院制の存続を迫ったと聞いております。

この松本氏の二院制採用の趣旨は、世界多数国の例に倣う、不当なる多数圧制の抑止と行き過ぎたる偏倚の制止、またその背景には、日本人特有の左右いずれに向かっても過激に偏頗する、軽々しく時の勢力に阿附する事大性、雷同性の民族性があることを指摘されております。

つまり、日本人はどちらに向かうにも熱しやすく、片方にわっと行ってしまうところがあり、権力者にへつらったり扇動されたり、またすぐ他人の説に同調したりするところがあると。

したがって、二院制にして慎重にダブルチェックをした方がいいというわけであります。

これまでに衆議院の議決が参議院で否決された例は幾つかあります。

その中でも二院制の危機を招いた例として、今から十年前の小泉純一郎首相政権下、二〇〇五年の郵政民営化法案があります。

郵政民営化法案は、衆議院において僅か五票差で可決されました。

それだけ賛否が拮抗した案件であったわけです。

一方、参議院では賛成百八票、反対百二十五票で否決されました。

それは、戦後有数の重要案件であったがゆえに、参議院でよく吟味すべきとのチェック、精査機能が働いたのであり、参議院の特性として典型的な役割を果たしたわけであります。

衆議院で可決された法案が参議院で否決された場合は、まず衆参両院協議会を開き、衆議院と参議院の調整を試みるのが常であります。

しかしながら、小泉首相は、通常の手続を完全に無視し、両院協議会を開くことなく、その日のうちに衆議院を解散しました。

両院協議会での協議がまとまらない場合は、再度衆議院に戻され、三分の二の多数議決で議案は可決されますが、三分の二に達しなければ廃案となるわけであります。

郵政国会当時、衆議院での再可決に必要な三分の二以上の賛成を与党が得るのは不可能と見られておりました。

そこで、小泉首相が取ったのが解散だったわけであります。

このような行為は前例がなく、参議院の存在を全く無視した暴挙でありました。

憲法には、両院の議決が異なった場合を前提にした規定があります。

それを全て排除したわけですから、これは議会政治の否定であり、憲法違反の疑いもあるとの当時は議論がありました。

行政府の代表である首相が、国会の議決、しかも参議院の議決が不服、不満だといって衆議院の選挙で決着を付けようとするのは言語道断の筋違いであります。

これは、三権の独立と、国会は国権の最高機関であるを完全否定し、行政府の長である首相を優位に置いたことを意味します。

小泉首相は、解散宣言後の記者会見で、今国会で残念ながらこの法案は否決され廃案となりました、国会の結論が郵政民営化は必要ないと判断を下された、私は本当に国民の皆さんがこの郵政民営化は必要ないのか国民の皆さんに聞いてみたいと思いますと語り、この衆議院選挙の結果は自民党圧勝で終わりました。

ここで再認識されるのが、二院制を提言した松本烝治大臣による日本人の性質に関する分析で、それは、左右いずれに向かっても過激に偏頗すであります。

参議院の意義と存在が懸かった極めて重要な政治的局面であったにもかかわらず、当時は、私の記憶では中曽根弘文議員のみが記者会見で抗議したことを記憶しております。

衆議院に優位性があるのは確かでありますが、だからこそ、参議院の存在意義を示すためにも、参議院自らがその存在を懸けて断固とした死活的抗議をすべきでありました。

小泉解散を安易に許した段階で、参議院の必要性と存在性を参議院自らが否定したと取られてもおかしくはありません。

あのような行為を前例としてつくったこと自体が参議院不要論を強めると考えております。

参議院でそういう意識改革ができていない限り、また起きる可能性もあります。

当然、総理大臣もそのような問題意識を持つべきではありますが、少なくとも、衆議院の解散は違法ではありません。

では、今後参議院はどうすべきなのか。

参議院の表決を理由に内閣が衆議院を解散することは、その手法の是非に関し賛否両論あるものの、現実的には可能であり、実際それが実行されたわけであります。

現行憲法では、内閣総理大臣に衆議院を解散する権利は当然認められておりますので、解散そのものは憲法違反を構成するものではありません。

しかし、現在の参議院の役割と同時にその限界、つまり牽制機能が働かないというジレンマが明らかになったわけであります。

確かに、ここ一か月間のオリンピックに関する一連の騒動を見ていますと、日本人は、どちらに向かうにも熱しやすく、片方にわっと行ってしまうところがあり、権力者にへつらったり扇動されたり、また、すぐ他人の説に同調したりするところがあるとの松本大臣の指摘は当たっているのかもしれません。

その意味でも、参議院の必要性を含め、健全な議会政治を運営していくために、参議院の牽制機能が働くための仕組みを議論し、導入することが今後の参議院として果たすべき役割と考え、私の今日の発言は終わりにいたします。

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