前参議院議員 田中しげる

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自民党総裁選と安倍外交 – パートⅡ
自民党総裁選と安倍外交 – パートⅡ
レポート 2018/07/17

「安倍外交と拉致問題」

 安倍首相への批判は「もりかけ問題」に限るわけではありません。特に最近よく目にするのは、首相が得意とされる外交問題に対する批判です。これまでは、トランプ大統領詣でで支持率の挽回を図ってきたのですが、その化けの皮がはがれたと指摘する批判が増えてきました。
 6月にシンガポールで行われた米朝トップ会談には、日本の出る幕が全くありませんでした。この間の日本外交の狼狽振りに、安倍外交の本質がよく表われていたと思います。独自の一貫した外交方針がみられず、トランプ大統領頼みという点だけが浮き彫りになりました。
 北朝鮮に対する日本の外交姿勢は、主に米国の力(軍事)を背景にした経済面の「圧力」でした。ところが、何度も指摘してきたように、トランプ大統領は政治的理念を持った政治家ではなく、損得勘定を第一義にするビジネスマン感覚の政治家です。今回の米朝会談のいきさつを見ても、自分(米国)に利があるように、ないしは利を作るように交渉してきました。トランプ大統領にならってさんざん「圧力」を唱えてきた日本は、2階に上がって梯子をはずされたのも同然でした。
かつて中曽根元総理を揶揄する言葉に「風見鶏」がありました。それについてご本人は意に介せず、世の趨勢を見ることが指導者にとっては大切であると述べていました。安倍首相も、もっとよく世界の流れを見るべきでした。
シンガポールでの米朝会談の直前にわざわざホワイトハウスを訪ねた首相は、トランプ大統領に「拉致問題」を取り上げることを再度頼んだと伝えられています。拉致問題に取り組むことで支持率の回復を狙ったとの報道もありましたが、その結果はどうだったのでしょうか? 
 以前、トランプ大統領は国連で拉致問題を取り上げ、横田めぐみさんの例を挙げて北朝鮮を非難しました。現実に拉致家族とも会っていますし、拉致問題に対する関心も高かったはずです。したがって、トランプ大統領に拉致問題を取り上げるように頼むのは、ごく自然な成り行きでもあったでしょう。しかしそれはまた、アメリカの大統領に直接頼まなければならないほど、日本は北朝鮮に対する強い外交ルートを持っていなかったという、日本外交の弱点をさらけ出す結果にもなりました。

 拉致問題への対応がなぜ重要か、基本的な意味を知る必要があります。
 拉致は国交のない北朝鮮の工作員なり、何かしらの意図を持った者が、日本国内で日本人を暴力的に、または欺いて連れ去ったものです。中には外国で騙されて北朝鮮に行き、拉致された人たちもいます。
国家はご存知のように主権、領土、国民の3つの要素から成り立っています。国家には国民の生命と財産、安全を確保する義務があります。ところがそれを踏みにじられたのが拉致です。これは米国の問題ではなく、国家としての日本の問題なのです。米国は北朝鮮との交渉のさなかに、拉致された3人の米国民の解放を求め、自らの手で帰国させました。米国だからできたともいえますが、外交ルート、交渉力、タイミング、みごとなものでした。その裏でどんな取引があったのか。少なくとも米国は「圧力」一辺倒ではなかったと思えるのです。

 安倍首相は、2002年の小泉首相訪朝の際に官房長官として同席し、金正日朝鮮労働党委員長から拉致問題の謝罪発言を導き出したことから、拉致問題に熱心な首相として解決を期待されましたが、その後、拉致問題は解決に向けて全く進展していません。とりわけ金正恩朝鮮労働党委員長に代わってからは、話にも出なくなっていました。その結果、米国頼みとなったのでしょうが、これは日本の主権の問題なのです。自国の拉致被害者を救ったトランプ大統領は、拉致問題を議題として取り上げた事実を日本政府に投げ返してきました。米国は、頼まれたことはやった、あとは日本政府の問題だというわけです。
このことをもって、拉致問題の解決が遠のいたとする論評も見られますが、報道によれば、金正恩委員長は安倍首相と会ってもいい旨の発言をしたとのことです。もしそうだとしたら、安倍首相にとっては朗報といえるかもしれませんが、ことはそれほど簡単ではありません。北朝鮮が求める見返りをどうするのか。経済援助や経済制裁の解除が考えられますが、それをどのように行うのか、また行えるのか。北朝鮮の非核化は、経済援助とのバーターです。へたに援助を進めた場合、これまでのように非核化が反故にされる恐れも十分にあります。
 「圧力」と言い続けてきた安倍首相は、米朝トップ会談を前に「圧力」の言葉を使わなくなりました。米国が圧力から融和路線に切り替えたからです。米朝会談そのものが、日本は完全に蚊帳の外に置かれた状態で行われ、安倍首相を始め、日本外交の見通しの甘さを明らかにする結果となりました。
そこでなりふりかまわず路線変更をしましたが、日本をはずした米中韓北の4カ国で今後の方針を決めていく可能性も取り沙汰されている今、中国を後ろ盾に息を吹き返した感のある北朝鮮との交渉は、簡単ではないでしょう。

 このような状況を作った原因の一つは、安倍首相の外交センスにあるといえるでしょう。私が考える問題は、これまでも何度か指摘したように対中国関係です。中国が朝鮮の宗主国だった歴史は、断ち難いほど長い期間にわたっています。伯父の張成沢や異母兄の金正男の殺害などにより、金正恩委員長と中国の関係はうまくいっていないと見られていましたが、北朝鮮が米国とのトップ会談を前に頼ったのはやはり中国でした。
 貿易摩擦をめぐって米国と中国の関係が悪化しつつあったのも幸いしたことでしょう。北朝鮮経済が頼る中国との関係を修復しない限り、孤立無援な北朝鮮が米国と交渉することは無理でした。米朝会談の内容には、習近平国家主席の意向が含まれていたことが十分考えられます。

 以前から、北朝鮮を動かすことができるのは中国だけと言われてきました。一方で、尖閣諸島の領有化以来、日本と中国の関係は悪化の一途を辿っていました。ところが、習近平国家主席体制が完成してからは、関係良化の兆しが見え始めています。実際、5月には日中韓首脳会談への出席のために李克強首相が日本を訪問しました。天皇と懇談も行い、日中関係は改善の方向へ向かったかのように見えます。
ただ、安倍首相がことあるごとに「日本の窓はいつでも開いている」といった、相手を見下したかのような発言を繰り返したことは、外交的に大きなマイナスでしたし、外交センスのなさをさらけ出したようなものでした。

 中曽根元総理は、自著の『天地有情』のなかで次のように述べています。

 ―(胡耀邦さんと)2人で会談をやったときに、それまでの「平和友好、互恵平等、長期安定」という3原則に、私は「相互信頼」というのを加えたいと提案した。「これからの日中関係にはいろいろ問題が起こるだろうし、疑心暗鬼もあるだろう。しかし、互いに信じあってその信頼に応えるよう誠意を持ってやれば、問題はすべて克服できる」と。そしたら、胡耀邦さんは目をまるくして、「それはいい提案だ」と、すぐに賛成した。それから4原則になった。

 中国との関係において、この4原則を大切に守ることが肝要かと思います。

 「外交は、つまるところ首脳同士の友好関係だよ」。これは中曽根元総理の述懐ですが、日本と中国の関係が最もよかったといわれる中曽根、胡耀邦時代はまさに2人の関係によって成り立っていたといえます。
『天地有情』には胡耀邦総書記との友好関係を示す例がいくつも書かれていますが、1984年に中国を公式訪問した際に、北朝鮮問題についても話し合ったことにも触れています。
 南北朝鮮の融和は、中国、ソ連、日本、アメリカが見守る中で北と南に対話させる方法しかないが、その前に、朝鮮戦争の交戦国が会って話し合うのがいいだろうと中国、北朝鮮、アメリカ、韓国の4者会談を胡耀邦総書記に勧めたところ、北朝鮮は韓国をはずした3者会談を主張したそうです。それで、胡耀邦に「そんな理不尽なことはないじゃないか。4者会議をやるようにすすめてくれないか」と頼んだ。すると「北朝鮮は心理的に難しい国で、中国も扱いかねている。そんなに北朝鮮に対して強く影響力を行使するという立場にないんだ」と胡耀邦が言ったとあります。
 この話を読んで思うことは、中国ですら北朝鮮問題の扱いにてこずっているという事実と同時に、当時の日本と中国のトップが、様々なことについて忌憚なく意見を交換し合い、両国の友好関係を築いていたことです。それを考えるにつけても安倍首相の「いつでも窓は開いている」とは一体何だったのでしょうか。

 実際、今回の米朝会談に際し、安倍首相が習近平国家主席と電話会議を行ったとは聞こえてきません。米国やロシアとはホットラインがあっても、中国とはないとするなら、それは安倍外交の最大のマイナスといえるのではないでしょうか。10月には訪中の予定とのことですが(これは総裁選に勝つことが前提)、中国との友好関係を築くことは、北朝鮮との新たな関係構築にも大きく寄与するはずです。
 ところで、安倍・トランプ関係はどういうものなのでしょうか。中曽根・レーガン関係と比較すれば全く異質のものと言えます。レーガン大統領は、資本主義国家の代表としてソ連との対決姿勢を鮮明にし、サミットを舞台に資本主義国家間の団結に力を注ぎました。ソ連の脅威下にあった日本の中曽根元首相は、レーガン大統領とともにサミット各国をまとめ、一枚岩となってソ連と対峙し、最後はソ連の崩壊を導いたのです。つまり、ひとつの政治理念の下に集まり、その理念を具現化したわけです。
 これに対し、トランプ大統領は自国の経済を優先するあまり、世界の支持を受けられずに孤立している状態です。世界はトランプ大統領の自国第一主義に振り回されてきましたが、皮肉なことに、利害関係の相反から同時に反トランプの結果を生み出すことにもなったのです。
そのことを考えれば、良好に見えるトランプ大統領との関係を手放しで喜べるわけでもありません。それどころか、やがて日本にも米国から数々の請求書が送られてくることでしょう。どのようにそれに対応していくのか。トランプ大統領との新たな関係を模索すべきではないでしょうか。

「海洋国家と大陸国家」

 少し前のことですが、明治大学名誉教授の入江隆則氏が『正論』に寄稿された「日本人は危機に気づかないのか」という一文を興味深く読みました。内容は半島問題についてです。氏によれば、海洋国家が大陸国家に対峙する際には、その中間に存在する半島の帰趨が死活的に重要だというのです。この説を述べたのは、イギリスの地理学者、政治家のハルフォード・マッキンダー(1861~1947)です。マッキンダーは地政学の創始者ともいわれます。
これを海洋国家である日本の周囲にあてはめれば、大陸国家とは中国とロシアであり、その中間の半島といえば朝鮮半島となります。つまり、日本にとって朝鮮半島がどのような形で落ち着くのかが極めて重要だというわけです。
 入江氏によれば、明治以降日清、日露の戦争を経て朝鮮併合に至った過程は、まさにマッキンダーの理論と一致するということです。「明治時代の日本の政治家たちはマッキンダーを読んでいなかったが、彼と全く同じ発想で日本の独立と繁栄のために朝鮮半島の重要性を理解していた。」と述べています。そして危惧するのは米国の北朝鮮に対する融和政策と、北朝鮮主導の下で朝鮮半島の統一が実現される可能性があることだとも述べています。
 トランプ大統領にとって北朝鮮は遠い東洋の小国に過ぎず、大陸間弾道弾による米国本土への攻撃さえなければ、それほど気にする必要のない国でしょう。しかし、もし朝鮮半島が北朝鮮主導で統一されたら、日本は韓国という同盟国であり、ロシアや中国に対する緩衝帯を失うことになります。入江氏は、戦後の日本人の平和に対する考え方や、核兵器保持などにも踏み込んで触れていますが、だからといって、かつて日本が通ってきた道に再び戻るべきではないでしょう。
 
 拉致問題だけではなく、安倍外交が北朝鮮への対応とその後に来る朝鮮半島の問題にどの様に対応するのか、そこに日本の将来がかかっているといっても過言ではありません。

日本に生まれ育ち、一生を過ごしたいと言える「誇りのもてる国」
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