元参議院議員 田中しげる

しげるレポート | 田中しげるの活動報告ブログ

新年度雑感~変わりつつある世界情勢
レポート 2017/04/17

「春宵一刻値千金 花有清香月有陰(春の夜の一刻一刻は、千金に値するほど素晴らしい。花は清らかに香りを漂わせ、月はおぼろに霞んでいる)」。これは宋時代の有名な詩人、蘇軾(そしょく)の詩ですが、 4月、希望に満ちた新年度が始まりました。 長い不在をお詫びするとともに、新たな気持ちでホームページの更新を行っていきたいと考えております。

トランプ大統領の誕生で様変わりする世界政治

長い不在の間に、日本だけでなく世界の政治状況は様変わりつつあります。これまでとの大きな違いはトランプ大統領がもたらしたもので、大統領が予備選挙時から一貫して主張してきた自国ファースト主義が、世界中を席巻していることです。自国ファーストは保護貿易主義とオーバーラップ します。もちろん、これによって世界各国の協調や連帯がなくなるわけではありませんが、利害の衝突でギクシャクとした関係が生じるおそれもあります。
事実、3月の中旬にドイツで行われた「G20」の会議では、アメリカを念頭に置いた保護主義が問題となりました。声明文に「反保護主義」の文言を入れるかどうかで議論になったようですが、報道によれば日本はトランプ大統領のサイドに立った発言をしたとのことです。すでに各国間で保護主義をめぐって軋轢が出始めており、信頼、友好関係に亀裂が生じつつあるといえるでしょう。
トランプ政権の誕生で、強引ともいえる手法で国会を通した日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定) への参加はなくなりました。アメリカが離脱を決めた段階でTPPが成立する公算がなくなり、その結果、日本の産業への影響などTPPが提起した問題への国民の関心も薄れ、うやむやになってしまいました。
トランプ大統領は移民の取締りを目的として、メキシコとの国境に壁を作るだけでなく、メキシコ、カナダ、米国の3国間で1994年に発効されたNAFTA(北米自由貿易協定) の見直しを主張しています。メキシコに工場を建設してメキシコからアメリカへ輸出すれば、関税がかからないことを利用しようとしている日本の自動車メーカーもそれに巻き込まれています。ただ、ごく最近、大きな見直しをしない方向で話しは進んでいるようです。ともあれ、良い悪いは別としてトランプ大統領が、選挙期間中の公約を着実に実行に移しているのは事実です。
これらの政策は、これまでのアメリカの経済政策を根本的に見直すことから始まっています。そこには日本や中国が為替レートを意識的に自国に有利になるように導き、アメリカ国民から仕事を奪っているという考え方があります。これは厄介な問題で、仮に円安が円高に振れる様になれば、輸出によって成り立っている日本の経済は大打撃を受け、株価も下がることになります。トランプ政権の経済政策に注視する必要があります。

極右政党の台頭

ヨーロッパでは近年、自国ファーストが深刻な問題を生み出しています。EU(ヨーロッパ連合)の基本的な理念は、参加加盟国の人間と物の自由の確保にあります。しかしそのことによって、中東諸国やアフリカの難民や移民が大挙押しかけ、大変なことになっています。EUの中心的な存在であるドイツは、以前から労働力不足を移民から補ってきました。ところがそのような移民の受け入れになじまないイギリスでは、移民によって仕事を奪われることに対する反発が強まりました。 結局、国民投票によってイギリス国民が選んだ道はEUからの離脱でした。それは「連帯」から「自国ファースト主義」への大きな転換でした。
自国ファーストはヨーロッパ各国に保護主義と排斥主義の考えを広げ、極右政党の台頭を招いています。今年予定されているオランダ、フランス、ドイツの選挙では、この極右政党の伸び方が注目されています。3月に行われたオランダの下院議会(日本の衆議院に当たります)の選挙では、極右政党の自由党は議席数を延ばしましたが、第一党になるという選挙前の予想からは大分下回りました。極右政党に対する警戒感が 強まった結果といえるでしょう。
その原因のひとつに、トランプ大統領の入国禁止に関する大統領令があります。これは一部のイスラム国からの入国を90日間禁止するというものですが、憲法違反とされ、履行されていません。テロの脅威を防ぐために入国審査のあり方を調査する一時的なものだとされますが、これに対し人種差別、人権侵害という反対の声が世界中で沸きあがりました。自国ファーストが、現段階で見渡す限りの将来にわたり、人類の普遍的価値と思われる自由・平等まで犯す危険があることを感じた人々が多かったといえるのではないでしょうか。それが、オランダの選挙結果にも示されたというのが大方の見方です。
4月、5月にはフランスの大統領選挙があります。ここでも極右政党である「国民戦線」の マリーヌ・ル・ペン党首が台風の目になっており、決選投票に進出することが予想されています。ル・ペン女史はEUからの脱退を目指し、大統領当選の暁にはイギリスと同じように、離脱か残留かを決める国民投票を実施することを公約に掲げています。フランスでも極右政党の人気に陰りが見えるようですが、蓋を開けてみなければわからないのが選挙ですから、注目して見ていく必要があります。
9月にはドイツの選挙があります。ドイツでは党是として「反ユーロ」を掲げる「ドイツのための選択肢」が、反難民政党として躍進しています。この政党のペトリー党首もフランスの国民戦線のル・ペン党首と同じように女性である点、またいずれも実績のある既成政党ではない新興勢力であり、過激な極右政党である点が共通しています。 EUを牽引してきたメルケル首相にとっては正念場を迎えることになりそうです。
アメリカの場合もそうですが、国民の不満はつまるところ不平等感、自分たちは経済的な恩恵に浴していないという思いに起因していると考えられます。世界経済にブレーキがかかり、先行きにも不透明感が漂っています。景気悪化で真っ先に切られていくのが社会保障関係の予算であり、弱者ということになります。アメリカでは1%の富裕層に99%の貧困層といわれていますが、貧困層の増大は日本でも大きな問題となっています。難民や移民により安全と仕事を奪われたと考える人々や地域では、不満を持った人々の支持を得て過激な極右勢力が台頭しているわけですが、かつて通ってきた道を再び歩き始めているとしたら大変なことになります。

保護主義

自国ファーストは、多くの場合保護主義 (保護貿易主義)として表に現われます。自国の産業を守るために関税率を高くする政策が典型的なものです。保護主義は何も今に始まったことではなく、多かれ少なかれどこの国も自国の産業を守るために行ってきたことですが、各国の利害の対立が表面化しやすいものです。今日、日本の基幹産業は自動車製造といえますが、この自動車を輸出する際に相手国が高い関税をかけたり、数量規制したりすれば価格が高くなり、その国での販売競争に不利となります。逆に日本の例でいえば、日本の農業は高い関税をかけることで守られてきました。本来なら平等であるべきですが、経済の強さや豊かさは国によって違いますから、すべてを平等にしてしまうと競争に勝てないために産業自体が衰退することになりかねません。
トランプ大統領が主張しているのは、まさにこの保護貿易主義です。TPPへの参加に反対したのも自国の産業を守ることを理由にしていました。大統領就任演説で「Make America Great Again」(アメリカを再び強くする)と何度も主張していました。現在のように製造、サービスなどが一国に留まらず最も効率的に行われるような体制が作られ、企業のグローバル化が進んだ今、保護主義で経済の再生ができるのか、世界経済が繁栄するのでしょうか?

天皇の退位問題

日本では天皇の退位問題が大きな話題を呼びました。問題はボタンの掛け違いどころか、かけるボタンすらなかったことにありました。日本国の象徴である天皇と、政治を行う首相や官邸との間が全くのディスコミ 状態だったわけです。国民に呼びかける形で天皇は譲位を望むことを婉曲的に表明され、90%近い国民が同意を示しました。
結局、今上天皇に限った特例法で決めるか、天皇の希望通りに退位を恒久的なものにするかに論点は集約されましたが、与野党の合意が形成され今国会で特例法として採決されることになりました。その内容は政府が当初から主張していた通りに特例法で一代限りの退位ということですが、しかし天皇の意向も反映され、今後同じようなケースが起きた場合は、先例に倣うことが加えられました。これが皇室典範の附則として書き加えられるわけですが、これによって皇室典範自体が矛盾を抱えることになりました。つまり生前退位も認めることになってしまっているのです。
また、懸案の女性宮家の創設については、検討を続けていくことも決められました。今のままでは宮家がなくなってしまう危機に瀕しています。現在、宮家として存在しているのは秋篠宮家、常陸宮家、三笠宮家、高円宮家ですが、三笠宮家、高円宮家は男子がいないために、女性当主が亡くなれば廃絶となります。常陸宮家は今上天皇の弟君ですから高齢であり、いずれ廃絶の道をたどることになります。つまり、秋篠宮家を除けば遠くない将来、宮家が存在しなくなる可能性が大きいといえます。積極的な議論や問題提起を行わず、申し送りするのが日本人体質ですが、この問題は待ったなしです。

時代は変わる

昨年7月に行われた参議院議員選挙の結果、保守派勢力は衆参両議院で憲法改正を発議できる 3分の2以上の議員数を確保しました。 天皇の退位問題で一頓挫しましたが、これからは憲法改正に向けて議論に拍車がかかることでしょう。そもそも自主憲法の制定は自民党結党時からの党是でしたが、国民の中で憲法改正に関する議論が行われず、改憲への機運が高まらず、なかなかそれが果たせずに来たのです。
時代は変化するとともに、日本を取り巻く情勢も変化しています。かつてはソ連の軍事的脅威が深刻でしたが、現在では中国、北朝鮮が大きな脅威となっています。尖閣諸島の国有化以来、その海域では中国軍と一触即発の状態が続いています。また北朝鮮は核実験を続けると同時に、ミサイルの発射を何度も試みています。3月には駐日米軍基地の攻撃を想定して、ミサイルを4発同時に発射するという暴挙に出ました。日本の経済水域に落下した物もあり、重大な事故になりかねない状況が生じています。北朝鮮は大陸間弾道ミサイルの技術を確立することでアメリカの脅威となり、アメリカと直接交渉をすることを願っていますが、これに対しトランプ政権はこれまでの北朝鮮対策は間違っていたとし、軍隊の投入などの強硬手段を含めた新たな対策作りを急いでいます。
いずれにせよ北朝鮮問題は、北朝鮮を取り巻く日本、米国、中国、韓国、ロシア5カ国のコンセンサスを取り付けた上で対処するのが望ましいのですが、過去の例から見てもすぐに何かが決まるということはないでしょう。そうだとすれば、その間に北朝鮮はさらに暴走を続けかねません。核弾頭を装備した大陸間弾道ミサイルの技術を完成させるようなことになれば、日本やアメリカのみならず世界の脅威となります。
世界情勢を考えることなく一国平和主義を唱える人はまだ多いようですが、 そのような時代はとっくの昔に終わり、自分の国は自分で守る時代になっています。繰り返しますが、時代は変化しています。個人の権利としてほしいままに与えられてきた所謂「自由」や「平等」は、自ずと制限されていくことでしょう。世界情勢を見ていると春や夏の時代は終わり、秋から冬の時代が来る気配に満ちています。我々はその時代を、時代なりに謳歌できるように備えなければならないように感じます。

日本に生まれ育ち、一生を過ごしたいと言える「誇りのもてる国」
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