元参議院議員 田中しげる

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東日本大震災3.11で思うこと : 原子力発電所-欠陥を内在したエネルギー政策-
レポート 2023/03/11

 中曽根康弘先生が原子力発電所を積極的に導入した1960年代は、世界的に原子力の平和利用への推進が強調されていた時代でした。
 その後の約50年の間に原子力発電所を取り巻く国際情勢は激変しました。その変化とともに、時の総理は常に原子力発電所に打撃を与え得る、自然災害及び外部からの攻撃等々に対してのリスク管理・危機管理を最優先課題として考えることの重要性が明らかになりました。特に日本は多くの活火山と大きなプレートが重なりあい、断層の歪を抱え、いずれ何処かで必ず大地震や噴火に見舞われます。原子力発電所の存在自体を否定せざるを得ない状況になっているのです。

  実は中曽根先生は総理退任後も原発の安全性には人一倍注意を払っていました。
  中部電力、東京電力の関係者から定期的に、特に地震が多発した時は緊急に説明を受けていました。私も同席した事がありますが、当時、彼らからは、「多重防護システムであらゆる自然災害から完全に守られている」と、自信を持って言われ納得するしかありませんでした。
 今でも忸怩たるものがあり猛省を含めて、原子力発電所操業に関し、その過程で2つの重大な危険性が内在している事について指摘したいと思います。

第1は原子力発電所自体の安全性です。

原発導入当初から、航空機よりも厳しく核兵器レベルの基本設計を行い、「フォールト・トレラント」(絶対に発生させてはならない、真の多重安全装置設置)を図ることが必須でした。また米国のスリーマイル島原発(1979年)、及び旧ソ連のチェルノブイリ原発(現ウクライナ・1986年)での重大事故発生を契機として、更なる安全性の見直しがなされるべきでした。

第2は放射性廃棄物処理の問題です。

高レベル放射性廃棄物の最終処分場については未決のままです。高レベル放射性廃棄物の放射能(放射性同位元素の放射性崩壊)により発生する放射線量(あらゆる生命体に致命的である)が充分に減衰するまでには、生物学的放射能半減期の観点からしても50年(放射能物質により異なる)に及ぶため、人間の生活環境から厳重且つ完全に隔離する必要があります。しかし、後世に多大な負の遺産となる極めて危険な廃棄物を貯蔵する国内の廃棄物処理場を、決定できないまま原子力発電推進が行われてきました。

 2011年3月11日(12年前の卯年)の、東日本大震災での東京電力福島第1原子力発電所事故では1号機、3号機、4号機で水素爆発が起き、原子炉建屋がほぼ損壊しました。津波は原子力発電所の「多重防護(5重)」に基づいて作られた安全神話を一瞬にして崩壊させたのです。
 自然の脅威(地震、火山噴火、津波等)の前に人間が考える安全など、存在しないのも同然でした。事故から12年経つ現在、燃料デプリ(原子炉内の冷却機能が失われ、核燃料や構造物が溶けた後に冷えて固まったもの)を取り出すことすらできないままでいます。
 そのような状況の中、処理水の海への投棄が今年から始まります。現在溜まっている処理水は130万トンを超え、敷地内に保管場所がなくなりつつあります。政府は今年中に100万トン以上を海に放棄する予定とのことです。処理水とは放射性物質を含んだ汚染水を処理して、放射性物質の濃度を低減する浄化処理を行った水です。
 初めから海への放棄以外の方法がないにもかかわらず、敷地内に貯めるだけ貯めて保管場所がなくなっての結果でした。福島の漁業関係者にとっては生きるか死ぬかという極めて深刻な問題でしょう。
 事故発生後、ピーク時には16万を超す人々が避難を余儀なくされましたが、そのうち33,365人が現在もなお避難生活を続けています(2022年調べ)。完璧な除染も行われていない地域へ帰ることなどできる筈がありません。
 自分のアイデンティティの原点は生まれ育った場所、故郷です。日本の四季折々の景色や行事を通して育ち、伝統文化に触れ代々引き継いだ、そして原体験を重ねた街に二度と戻れなくされたのです。為政者なら、国民に故郷を失わせるような状況を作ったことは為政者失格で最大の屈辱、最大の汚点だと痛感すべきです。そのことが、日本の将来を背負って立つ次世代の子供たちにも影響するなら、国家の根底を揺るがす深刻な問題であることと認識すべきです。

 東日本大震災前のエネルギー政策では、エネルギー全体の30%を原子力で賄うことになっていましたから、事故の影響は極めて深刻でした。実際に電源別発電電力量の推移を見ますと、最大で34%を占めていた原子力発電は、津波による事故後の2013年には1%となり、翌14年には0%にまでなりました。それからは少しずつ増え2021年には5.9%まで戻しています。日本には東日本大震災前に54基の原発がありましたが、2022年6月の時点で再稼働したのは6発電所の10基のみとなっています。いずれも爆発した福島第1原発の「沸騰水型」ではなく、「加圧水型」となっています。
 日本は2050年の脱炭素社会実現を掲げていますが、そのためには原子力発電所がさらに増え、フル稼働することが予定されていることと思います。しかしそれは反面、新たな事故が生じる可能性を大きくします。
 日本のような少資源国にとってエネルギーの問題は、国の存亡をかける問題となります。従来の「多重防護」の安全対策ではなく、「フォールト・トレラント」の絶対に発生させてはならない、真の多重安全基準と管理体制を首相の決断、政府主導で大至急構築すべきです。とりあえず国民の一人一人が今すぐできること、省エネを実践していく必要もあります。
 即原発ゼロに出来ないまでも、原発への依存に否定的であることは、国民の総意だと思います。従って、即刻代替エネルギー(メタンハイドレートを含む)等のための研究開発体制構築及び技術革新について、総合的な国の力を傾注すべきです。その上で、原発廃止へ向けての工程管理表を電力会社主導ではなく、国主導で作成し国民の理解を求めるべきです。
 同時に、隣国の原子力発電所にも注意を払わなければなりません。日本では、春先に黄砂の影響があるように、西側にある国々で原子力発電所に事故、テロ、紛争等々が発生した場合は偏西風、ジェット気流により必ず日本も大きな被害が出ます。ウクライナ・ロシア戦争で理解したように、原子力発電所の存在は世界的問題なのです。

 震災から12年が経過しましたが、国民と共有する目標を作成することなく、このまま再稼動を進めていくべきではないと考えます。それではなし崩し的に原発に頼った、これまでと何ら変わらない欠陥を内在したエネルギー政策が、繰り返されるだけでしょう。

日本に生まれ育ち、一生を過ごしたいと言える「誇りのもてる国」
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