元参議院議員 田中しげる

しげるレポート | 田中しげるの活動報告ブログ

統計不正問題で揺れる安倍政権
レポート 2019/03/12

 現在、国会で議論されている毎月勤労統計の不正問題には、国民生活に多大な影響を与える二つの側面があります。
一つは、長い間決められたサンプリング数を、厚生労働省の職員が勝手に減らして統計値を出していたため、社会保険の支給額などが低く支払われていたという問題です。その調査を進めている過程で新たな問題が浮上しました。それがもう一つの側面で、現在国会で紛糾しているのはこちらの問題となります。実は、2018年度より毎月勤労統計のサンプリングの一部が、これまでとは変わっていたのです。何故その変更が行われたのか、その結果として統計値はどのように変わったのか、そしてその指示は誰がしたのか、が問題となっています。

毎月勤労統計は働く人の賃金や労働時間を示すものです。対象となるのは従業員が500人以上の事業所すべてと決められています。ところが東京では対象事業所が1400あるにも関わらず、3割程度をカットして調査していました。2018年まで20年以上にわたり、それを続けていたのです。当初、カットしていたのは1割程度だったようですが、2004年からは3割に及んでいました。それだけサンプル数を減らしてしまいますと、当然ながら正確な値が出ません。そのことによってどういう影響が出たのか。
毎月勤労統計の値を基に、休業給付や失業給付など様々な手当ての額が決められています。ところが不正統計の結果による数値から、厚生労働省は賃金水準を低く見積もっていたため、社会保険支給額などが本来の額より低く支払われていました。それによって過少給付になった人は延べ約2000万人。国が追加で給付する金額は約538億円。事務経費やシステムの改修経費などを合わせると約800億円とされています。しかし、20年も前まで遡ると、すでに亡くなられている人や引越しなどで連絡が取れなくなっている人も多数います。そういう人は、本来給付される額をもらえないことになります。
額の多少に関わらず国が犯したミスですから今後どうするのか、またその結果がどうなったのか、国民に明らかにしなければいけません。しかし、役所の仕事のずさんさは何も今回の問題に限られたわけではなく、かつては消えた年金問題もありました。これまでの政府の対応を考えると、国民の正当な権利がどれだけ守られているのか、疑問を抱かずにはいられません。

もう一つの面は、毎月勤労統計の基本となるサンプリング手法を一部取り替えてしまったことです。そのため、出てきた統計値が従来のものと比較すると高くなり、賃金の上昇を示すようになったことにあります。数値が高くなったことに加え、一体何のために変えたのかが問題となりました。サンプリング手法を変えてしまえば従来の統計とは異なる数値が出るのは当然で、これまでの統計の意味がなくなります。
野党の調査で分かったことですが、統計サンプルを全面的に変える案が省内では出ていたようです。ところが、それが一部を取り替えるだけの案に変更になりました。こうして2018年度から統計方法が変わり、その結果の値がこれまでより高く出てプラスになったのです。何故そうなったのかを調査したところ、当時の総理秘書官の働きかけ、というより指示があったことが分かりました。つまり、アベノミクスの効果が現われているように見せるために、統計のサンプリング手法を一部変えたのではないか、そして、そこには安倍総理の意向が働いていたのではないか、という当然の疑問に発展したのです。

昨年の「加計問題」と全く同じ構図が浮かび上がりました。総理秘書官が働きかけをした証拠の文書が残っており秘書官も認めましたが、当然ながら総理からは指示を受けていないこと、また、故意に数値がプラスになるようにしたわけではないと釈明しています。加計問題の時といい、今回の統計不正問題といい、安倍総理の秘書官は上司たる総理の指示も受けずに、自ら動き回ってその結果を総理に報告しないという、およそ秘書官とは思えない人が多いようです。
安倍総理は野党の質問に対し、早々に「私は指示していない」と言明しました。もしそうだとしたら一介の総理秘書官が、自ら指示してこの国の統計を恣意的に変えてしまったことになります。総理の存在意義はどこにあるのでしょうか? 残念ながら安倍総理の答弁は全くそのことに触れていません。「指示されていない、報告していない」と証言する秘書官を野放しにしています。安倍総理の話が事実なら、秘書官達はこの国を操る力を独自に持っていることになります。
野党側の調べによれば、もし統計のサンプリング手法が変わっていなければ、18年度の統計では、ひと月を除いて他のすべての月で賃金の伸び率はマイナスになったと主張しています。それは、アベノミクスの効果が出ていないことを意味します。野党側は、従来の方式で統計を取った場合の数値を示すように要求していますが、政府は公表を拒否しています。

そもそも統計の数値には誤差もあり、何をサンプリングするかによっても恣意的に作ることが可能なため、鵜呑みにできない面がありますが、国家の統計となれば、国民が検証できるわけでもなく信じざるを得ません。それだけに今回の不正問題は徹底的に解明して、二度と起きないような対策を取るべきです。 
 しかし厚生労働省内に設けられた特別監察委員会は、二度にわたり組織的な隠蔽はなかったとしました。第三者を入れない身内で構成された特別監察委員会ですから、予想通りの結果と言えますし、それによって安倍政権、国に対する信頼がさらに失われたと言えるでしょう。そういうこともあってか、最近の安倍総理の国会での発言(本人の野次も含めて)は過激になり、品格さえ疑われるように感じます。極めつけは野党議員の「ギリシャは統計の問題が発端で経済危機が起こった。統計の問題は扱いによっては国家の危機になる。そういう認識があるか?」の問いに、「私が国家ですよ」と傲岸不遜とも思える答えが返ってきました。「朕は国家なり」とルイ14世は言いましたが、絶対王政時代ではあるまいし・・・。
 安倍総理の最近のスローガンや言い方には、たとえば「戦後の総決算」のように中曽根元総理が使ったフレーズ(『戦後政治の総決算』等)がよく使われます。元総理も自らと国家との関係を述べたことがあります。それは「私の中には国家がある」というものでした。ですが、その違いは歴然としています。
その一方、これまでにいろいろな問題が起きたにも関わらず、安倍総理の支持率は落ちることがありません。事実、ご本人が野党を野次ったように「選挙で5回勝った」わけです。強力な対抗馬が野党や自民党内にいない「消去法」であっても、外交や経済問題に対する国のトップへの国民の期待があることも事実でしょう。支持率が低下しないことにあぐらをかくことなく、謙虚にしっかりと政治を行っていただきたいと思います。

 国会が統計不正問題で揺れている間に、2月末にベトナムで行われた米国と北朝鮮の2回目の交渉が決裂しました。世界の政治情勢は激しく動いています。日本は4月から5月にかけて今上天皇の譲位と新天皇の即位が行われます。その後も5月のトランプ大統領、6月の習近平国家主席の来日(予定)、そして大阪で開かれるG20の会議ではロシアのプーチン大統領と、懸案の北方領土問題が話し合われる予定です。さらに7月には参議院選挙があります。その選挙が衆参同時選挙になるかは、北方領土問題の進展次第と言われています。
世界と日本、政治の動きから目の離せない日々が続きます。

日本に生まれ育ち、一生を過ごしたいと言える「誇りのもてる国」
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