元参議院議員 田中しげる

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日本政治の変化~選挙制度
日本政治の変化~選挙制度
レポート 2021/10/04

 第100代内閣総理大臣に岸田文雄氏が就任しました。しかし、最近の政治を見ていますと、何か物足りなさというのか、深み(ダイナミズム)を感じるものがありません。日本の政治にこのような変化をもたらせたものは何か?

 その大きな原因に、1996年から実施された「小選挙区比例代表並立制」と、「政党助成金の導入」があるでしょう。この二つの制度の主な問題点は、以下のようにまとめられます。
●政党維持の経費(政党助成金: 毎年、選挙権のない者も含め全国民が一人250円を拠出)は、無駄にできない国民の税金でまかなわれているため、政治のダイナミズムが失われる。
●一人だけが当選する小選挙区制では、当選者の固定化を生みやすい。
●小選挙区で負けた候補者が、比例代表で当選する重複立候補制の矛盾。
●小選挙区では政党に属さず、推薦もない候補者が勝つのは極めて難しい。
●小選挙区では得票率と議席獲得率の間に大きな差が生じやすい(2017年の選挙で自民党は、小選挙区の得票率が48%だったにもかかわらず、全議席数の75%にあたる218議席を獲得した)。
●投票率の低下。安倍政権下の直近の衆議院議員選挙は52.66%(2014年)、53.68%(2017年)と、戦後実施された同選挙の最低と下から2番目。過去8回行われた小選挙区制選挙で5回が50%台。中選挙区制では平均が72.23%。
●小選挙区制は二大政党化を導きやすいといわれるが、日本の現状は異なる。
●公認権・人事権・資金が党の実権を握る中枢部に集中する。
●総理総裁派閥が強くなり過ぎる。岸田首相の「宏池会」がこれまでの総理総裁派閥(細田派、麻生派)同様、今後どれほど伸びるのか注目される。

 かつて行われていた「中選挙区制」は、戦後第一回目の衆議院議員選挙から導入され、一選挙区の定員が大体 3~5 人でしたから、それだけ選挙民の声が政治に反映されました。また、政治家を志す者にとっては、現行制度に比べはるかに立候補がしやすく、他の候補者達の隙間を狙うこともできました。それだけ多様性があり、「和」や「中庸」を尊ぶ日本人の考え方や生き方に、適応した制度だったと言えます。

 しかし、自民党の派閥間の争いの激化と共に、金権政治による支配が続くようになり、とりわけ選挙では所属議員を増やすために各派閥が資金を投入し、金のかかる選挙が行われました。金権主義が常態化することに対する国民の反発は強く、自民党が下野して誕生した細川護煕内閣の下で、1994年、新しい選挙制度と同時に、政党助成金制度が導入されることになったのです。
 
 ところが小選挙区制においてのカネの問題は、最も敏感にならざるを得ない税金を原資とする政党助成金の使い方へと、内容が変わりました。端的にいえば、党の資金運営を任された幹事長、更に総裁の党内独裁が問題になってきました。そのことこそ、党内で各派閥が牽制しあうチェック・アンド・バランスによる緊張感が失われ、政治がつまらなくなった原因といえるでしょう。
 
 小選挙区制は死票が多数出ます。一方、比例代表制は各政党の得票率に応じて、議席を割り振るため死票が少ないのが特徴です。二つの制度を導入することで、死票のバランスを取ったのでしょう。しかし、両者に立候補が可能としたことにより、小選挙区で落選した候補者が比例代表で当選するという、おかしな制度になってしまいました。これでは選挙する意味がないと、多くの国民が感じています。小選挙区比例代表並立制による選挙の投票率が全般的に低いのも、ここに一因があるのではないでしょうか?

 衆議院議員選挙が10月に行われます。その結果も踏まえ、小選挙区比例代表並立制と政党助成金について、日本の未来を託す制度としてよりよいものにするため、議論すべき時が来ているのではないかと思います。

 中曽根康弘先生が23年前の1998年に出版した『日本人に言っておきたいこと』(PHP 研究所)の中で、小選挙区制について次のように記されています。
「(小選挙区比例代表制について)もう一度その中身が国民が望む方向に本当に進んでいくのかどうか、そしてそれが日本の運命をどう変えるのかを再検討してみる必要があろう。たとえば、政党内独裁の危険性というものはないのか。
これは当然、公認や党内運営等の問題をめぐって、党の幹事長や執行部に人事権などの権力も資金も集中する問題から発生する。その場合には、党規約と運用において独裁化防止策が具体化されなければならない。
 自民党の場合も、公認問題については資格精査の特別の審査委員会をつくって執行部だけに任せないとか、資金の使い方についても一定額以上の金額は公正にして重量感のある財務委員長が事前に判子を押さなければ出さないというように、ひとつひとつ具体的に検討すべきである」

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